マシュー・ケニー氏へのインタビュー

ローフードのカリスマ、マシュー・ケニー氏。オンラインメディアに掲載されたインタビュー記事をご紹介します。

 

自分で言うのもなんですが、ありとあらゆるパーティーやイベントに招かれて料理をする売れっ子シェフでした。一度など、料理をするためにジェームズ・ベアード(訳者注:著名な料理研究家)の自宅に招かれたこともあるくらい、キャリアには恵まれていたんです。

でもヴィーガンのシェフになってからは、そういう華やかな依頼は一切なくなってしまいました。

 

マンハッタンに「ピュアフード&ワイン」をオープンしたのは今から10年前のことです。私が手掛けるヴィーガンプロジェクトの記念すべき第1号となりました。

もともとはふつうの料理学校でトレーニングを受け、肉や魚も提供するレストランでシェフをしていたのですが、その頃はヘッドハントされることもたびたびありました。

そんなバックグラウンドを持つ私ですが、植物性の食事をした方が体調がいいと身をもって経験したこと、そして自然や動物を心から愛していること、この2つの要素を組み合わせて、ヴィーガンの世界を探求することが自分の進むべき道だと考えるようになったのです。

 

ヴィーガンレストラン以外は行かない、ローフードしか食べない、なんてことは全然ありません。すばらしい野菜料理を出すレストランは、ベジタリアン専門のレストランでなくてもたくさんありますから。

ロサンジェルスで気に入っているのはCrossroadsCafé GratitudeGjelina。ニューヨークではABCキッチンに寄ることが多いですね。私はレストランそのものに魅力を感じ、レストランでの経験にワクワクするタイプなんです。自分のローフードレストランを持つ前からそれは変わりません。

現状はまだまだだとしても、ヴィーガンレストランはそのうちもっとずっと一般的になり「老舗」「一流」といわれるところも出てくるのではないか、またそうなってほしいと思っています。

 

自身のローフードレストラン「ピュアフード&ワイン」は、セクシーでエレガントなレストランになるよう意識しました。そうすれば、どんな料理がでてこようとお客さまに魅力的だと感じてもらえますから。スシの例でいえば、Nobuができるまではああいう雰囲気の中で日本食を食べられるなんて考えてもみませんでしたよね。それと同じ効果を狙ったのです。

 

ヴィーガン料理がここまで認知されるまで思っていたより長くかかりましたが、ニューヨークのジャン・ジョルジュ(訳者注:3つ星レストラン。ベジタリアン専門のレストランを昨年オープン。日本にはけやき坂に上陸しました。早く行きたい♪)やパリのアラン・デュカス(訳者注:日本では銀座シャネルビルの最上階にあるレストラン「ベイジ」を手掛けたシェフとしておなじみ)のように、ベジタリアンに着目した料理を提供している「一流」とよばれるシェフたちは確実に存在します。

NOMA(訳者注:伝説のレストラン。201519日~214日まで、マンダリンオリエンタルホテルに期間限定出店します)では22コースをいただきましたが、そのうちの18コースはベジタリアンだったんじゃないかな。

それに、マリオ・バタリ(イタリア料理のセレブリティシェフ)はベジタリアンメニューに特に力を入れているシェフではないけれど、Del Posto(ニューヨークにあるバタリのレストラン)ではすごくおいしいヴィーガン料理を食べることができる。こんなことも、ヴィーガン料理にとっては大きな前進の一つだと思っています。

 

今日のシェフの役割は、ただ料理をつくることにはとどまりません。おいしい料理を提供することはもちろん、同時にお客さまが健やかな人生をおくる手伝いもする、それが料理人の使命だと思うのです。 

私が料理学校に通っていた頃は、塩辛くてバターをたくさん使ったような料理が主流で、生徒たちはランチの後タバコを吸いにいっていたものですが、今、私の学校に通ってくる生徒たちは、休み時間にはグリーンジュースをテイクアウトして戻ってくるのですから、時代は確実に動いていると感じています。

 

ヴィーガンになろうと思ったらまず納得いくまで自分で調べること、そして、すぐに完璧なヴィーガンになろうとしないこと。今の時代は情報もたくさんあるし、私の学校で提供しているオンラインコースのように、インターネットでヴィーガン料理の作り方を学ぶことだってできます。

正しい知識を持つことはとても重要です。レンズマメが効率的な植物性のタンパク源だと知っていれば、ナッツをたくさん食べ脂肪をとり過ぎてしまわずにすみますから。

 

サンクスギヴィングやクリスマスに家族や親しい友人たちと集まったときに、お約束のターキーやチキンをパスすることは非常に難しいという人はすごく多いですよね。だからといって、私はこういう伝統的な料理をココナッツや豆腐からつくろうと考えたことはありません。私にとって食事とは心を養うためのもの。家族や親しい人と集うサンクスギヴィングやクリスマスも、目的は全く同じだと思うのです。そんなすばらしい機会にこそ、身体にも心にも優しい食事をしていただきたいですね。

たとえば、レンズ豆などの豆や、さつまいも、かぼちゃとアボカドをあわせ、レモンを隠し味にすればおいしいホリデーディナーになります。また私はスプラウトにした生のカシューナッツからオリジナルチーズをつくっているのですが、これがすごくおいしい上に良質な生の栄養をとることができるので、ぜひみなさんにもおすすめしたいと思います。

肉や魚を模したメニューを自分のレストランで出していたこともありますが、今ではそんなことをしなくてもお客さんが理解してくれるようになったのはありがたいことです。

 

フォークス・オーバー・ナイブズのように観た人を怖がらせて意識の転換を図ろうとする戦略は、個人的にはもう必要ないと思っています。美しくディスプレイされた、本当においしい植物性の料理をロマンティックなレストランで食べることができるなら、状況は自然に変わっていくはず・・料理学校をはじめたのは、そんなことも理由の1つです。

 

最近では、有名人がヴィーガンの食生活に挑戦していることから、ヴィーガンにスポットライトが当たっていますよね。実は、僕の学校を卒業したシェフたちが映画スターの自宅に行って料理をすることもあるし、彼らが雇っているパーソナルシェフに料理の仕方を教えることもあります。

ごく初期の私たちのクライアントにはNFL(ナショナルフットボールリーグ)の有名なクオーターバックがいます。最近では世界的に有名なバスケットボール選手が、私たちが提案する食事法に興味をもってくれ、食生活を変えたことで健康状態がずいぶん改善したと喜んでくれています。本人だけでなく、彼のスタッフもみなそのことに気づいてくれているようです。

 

2014年のNYCワイン&フードフェスティバルに招聘され、ヴィーガン料理をゲストの方々に提供できることをとても光栄に感じています。これまでは、このようなイベントにこちらからアプローチしても断られることが多かったですから・・ヴィーガン料理が社会に受け入れられてきている証拠ですね。これからもっともっとヴィーガン料理を広めていくための、大きな足掛かりになったと、本当にうれしく思っています。